下肢静脈瘤診療のご案内

下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤とは、「足の血管が浮き出ている、コブになっている」「足が重い、だるい、疲れる」「足がつる」「足の血管が痛い」といった症状がおこる病気です。良性の病気であり、命に関わるようなことはほとんどありませんが、放っておいても治りません。また、進行していくと、上で述べた症状が悪化していったり、湿疹ができたり、皮膚に潰瘍(きず)ができたり、出血したりすることがあります。本来、静脈には逆流を防ぐための弁が備わっているのですが、この弁が壊れ、血液が逆流し、静脈が膨らんでコブになってしまうというのが下肢静脈瘤の主な原因です。かなり頻度の高い病気のひとつで、日本人では40%以上の方に認められ、妊娠・出産経験者では50%の方に認められるという報告があります。下肢静脈瘤になるきっかけとして、妊娠、出産、立ち仕事、加齢、深部静脈血栓症などが挙げられます。現在は優れた治療法が開発されているため、上で述べた症状に悩まされている方はぜひ医療機関を受診されることをお勧めします。また、湿疹ができたり、皮膚に潰瘍(きず)ができたり、出血している場合は重症になっている可能性が高いため、早めに受診されることをお勧めします。

下肢静脈瘤の原因

血管には動脈と静脈の2種類が存在します。動脈は心臓と直接つながっており、動脈の中の血液は心臓の強いポンプ作用で「ドクンドクン」と力強く流れていきます。一方、静脈は手足の先などから心臓にかえっていく血液を運ぶ血管で、静脈の中の血液は静かに流れていきます。動脈のように心臓の強いポンプ作用を借りることができないため、静脈の周りにある筋肉の伸び縮みなどを利用して流れています。しかし足の場合、重力のせいで血液が足先のほうに戻ってしまう影響を強く受けます。そこで、静脈には「ハの字」型の弁が備わっており、血液が足先のほうに戻ってしまうのを防いでいます。この弁ですが、妊娠や出産、長時間の立ち仕事によって強い負担がかかり、壊れてしまうことがあります。また、加齢で弁が弱くなったり、遺伝でもともと弁が弱かったりして壊れてしまうこともあります。その結果、血液が足先から心臓のほうにスムーズに流れなくなり、血液が静脈の中に溜まるようになり、やがて静脈がコブのように膨らんでしまいます。これが下肢静脈瘤の状態です。

下肢静脈瘤の症状

下肢静脈瘤の主な症状は以下のとおりです。

  • ふくらはぎに血管が浮き出る、血管のコブができる(すねや膝、足首、ふとももに起こることも)
  • 浮き出た血管が痛い、血管のコブが痛い
  • ふくらはぎが重い、だるい、疲れやすい
  • ふくらはぎがつる(こむらがえりが起こる)
  • 膝から下がむくむ(足がむくむ)
  • ふくらはぎに湿疹ができる、茶色い色素沈着ができる、皮膚に炎症が起こる、潰瘍(きず)ができる、出血する、皮膚が硬くなる(すねや足首に起こることも)

これらのうち、「ふくらはぎが重い、だるい」「膝から下がむくむ」などは、1日中というよりも長時間立っていたあとや、昼から夕方に起こることが多いです。また、「ふくらはぎがつる」のは、夜寝ているときや明け方が多いです。ほとんどの症状は、静脈内に血液がうっ滞することで起こります。なお、静脈瘤の中に血栓ができ、それが全身に悪影響を及ぼすのではないかという心配を耳にしますが、その可能性はほとんどありません。

下肢静脈瘤の検査

下肢静脈瘤であるか否かを診断するには、問診と診察に加え、検査が大切です。また、治療が必要な状態なのか、どのような治療を行われるのが望ましいのかを考えるのにも検査が重要です。検査には超音波検査(エコー検査)、静脈造影(ベノグラフィー)、CT、MRI、ドップラー血流計、容積脈波検査があります。しかし、超音波検査機器の進歩や検査技術の向上により、ほとんどの下肢静脈瘤は超音波検査のみで診断や治療の検討が可能になりました。

超音波検査とは、ブローベという検査道具をゼリーとともに皮膚の上にあてながら、皮膚の下にあるさまざまな組織を観察する検査です。下肢静脈瘤を疑う場合は主に静脈を観察し、静脈が拡張しているか、逆流があるか、血栓がないかなどをチェックします。下肢静脈瘤に対して治療を行われたあとも、治療が成功しているかなどのチェックに用いられます。体への負担がまったくと言っていいほどなく、痛みもないため、繰り返し行いやすい検査です。欠点としては、検査に熟練を要することが挙げられます。当院では経験豊富な検査技師と下肢静脈瘤診療を専門とする医師が行っており、安心してお受けいただけます。

上述のとおりほとんどの下肢静脈瘤は超音波検査で事足りますが、別の病気が疑われたり、病状が複雑な場合は追加でCTやMRIを行うことがあります。

下肢静脈瘤の治療法

下肢静脈瘤の治療法には圧迫療法、皮膚レーザー照射療法、硬化療法、手術、血管内レーザー治療、血管内接着材治療があります。

  • 圧迫療法:弾性ストッキングや弾性包帯を用いて足に圧迫を加え、拡張してしまっている静脈を縮めたり、血液の逆流を防ぐ治療です。「足が重い、だるい、疲れる」といった症状が軽快します。根本的な治療ではないので、圧迫療法をやめれば症状も再発します。
  • 皮膚レーザー照射療法:下肢静脈瘤の中には皮膚に細く赤い血管が広がって見えるものがあり、クモの巣状静脈瘤と呼ばれています。皮膚レーザー照射療法は、クモの巣状静脈瘤に対する有効な治療のひとつで、見た目を改善させます。当院では色素レーザーのひとつVbeam(シネロン・キャンデラ社)を用いてこの治療を行っています。
  • 硬化療法:硬化剤と呼ばれる液体(もしくはこれを泡状にしたもの)を注射で静脈内に注入し、静脈瘤を縮めたり、血液の逆流を起こしている静脈をつぶしたりする治療です。以前は再発しやすいことがデメリットでしたが、治療が簡便で短時間で終わることや、硬化剤や治療技術の進歩により治療成績が向上しており、見直されています。
  • 手術:主にストリッピングと高位結紮があります。ストリッピングでは、皮膚に切開を加え、そこから逆流を起こしている静脈を引き抜きます。高位結紮では、皮膚に切開を加え、逆流を起こしている静脈を糸でくくった上で切り離します。きずあとが残ることや低い確率で神経障害を起こすことがデメリットですが、根本的な治療であり、ストリッピングは再発率が低いです。このほか、非常に小さな皮膚切開から小範囲の静脈瘤を引き抜く瘤切除(スタブ・アバルジョン法)という手術もあり、血管内レーザー治療と一緒に行われることがあります。
  • 血管内レーザー治療:逆流を起こしている静脈の中にファイバーを通し、そのファイバーから静脈の内側の壁にレーザーを照射することで、逆流を起こしている静脈をつぶしてしまう治療です。治療の狙いはストリッピング手術と同じですが、皮膚に切開を加えないため、きずあとがほとんど残りません。上述の治療と比べて新しい治療で、2001年にNavarroという医師が報告して以降、世界中に広まり、治療技術と機器が進歩していきました。現在では、治療成績が高く、合併症が少なく、治療後の回復が早い治療として、日本国内でも広く行われています。レーザーではなくラジオ波で同様の治療を行う方法もあり、合わせて血管内焼灼術と呼ばれています。当院では、最新機種のひとつであるELVeSレーザー1470(インテグラル社)を導入し、保険適用の診療を行っております。
  • 血管内接着材治療:逆流を起こしている静脈の中にカテーテルを通し、そのカテーテルから瞬間接着剤を注入することで、逆流を起こしている静脈をふさいでしまう治療です。かなり新しい治療で、2019年12月に保険適用となりました。「きずあとがほとんど残らない」「治療成績が高い」「合併症が少ない」「治療後の回復が早い」「治療時の局所麻酔が少なくて済む」「治療後の弾性包帯や弾性ストッキングがいらない(立ち仕事の方を除く)」などの特徴が挙げられ、現在注目を集めています。異物を体内に入れる治療であるというデメリットがあり、血管内レーザー治療と使い分けられています。当院では、VenaSealクロージャーシステム(メドトロニック社)を導入し、保険適用の診療を行っております。

このほか、長時間の立ちっぱなしや足をおろしっぱなしにするのを避ける、体操やマッサージを行うといった日常生活の改善も効果があります。こむらがえりには漢方の内服が有効なことがあります。すべての治療法にメリットとデメリットがあり、これが最も優れていると断言することはできません。当科では、下肢静脈瘤の病状だけでなく、患者さま・ご家族の状況とご希望も考慮した上で、もっとも良いと思われる治療法をいっしょに選択することが大切だと考えています。

当院の受診を検討されている患者さまへ

  • 担当医について:10年以上の診療経験がある江尻浩隆医師が担当しており、年間の治療件数は姫路市トップクラスです。血管内レーザー治療の実施医・指導医資格や血管内接着材治療の資格を所有しているほか、神戸大学形成外科で長年にわたって硬化療法やレーザー照射療法に携わった経験を生かして診療にあたっています。また、同じく神戸大学形成外科で長年にわたって血管腫・血管奇形の専門外来を担当したため、下肢静脈瘤とまぎらわしい病気である静脈奇形の診療にも詳しいです。
  • 診察日時について:江尻浩隆医師の外来は月曜、水曜、木曜、第1・3土曜で、9:00~12:00に行っております(祭日を除く)。学会等で休診の場合がございますので、お電話でご予約いただくか、「休診・変更のお知らせ」をご確認のうえお越しください。予約優先で診察しておりますので、ご予約いただくことをお勧めいたします。
  • 紹介状は不要です。お気軽に受診してください。
  • 診療の流れ:外来で問診、診察が行われたのち、超音波検査が行われ、診断および病状の分析が行われます。分析の結果を踏まえ、話し合いのもと治療方針が決まり、治療に進みます。治療は日帰り、入院いずれにも対応しておりますが、患者さまの安全を第一に話し合いの上で決めるようにしています。治療後は経過が問題ないか、再発がないかのチェックが行われます。
  • 治療の痛みについて:痛みを伴う治療においてはしっかりと局所麻酔を行うため、麻酔のときの痛みだけ我慢できれば、治療中に痛みを感じることは基本的にありません。また、局所麻酔の針は痛みの少ない細いものを使用しています。
  • 仕事や生活への支障について:血管内レーザー治療や手術は局所麻酔で行われますので、仕事や生活にはすぐに復帰できます。血管内レーザー治療の場合、「家事を含む日常生活は治療当日から」「車の運転は翌日から」「シャワーは翌日から」「事務仕事は翌日から」開始していただいて構いません。血管内接着材治療の場合、これらすべて治療当日から開始していただいて構いません。このほか詳細について分かりやすいご案内をお渡ししています。

参考情報: 日本血管外科学会ホームページ ほか

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